炎上

炎上 [DVD]炎上 [DVD]
(2004/10/22)
市川雷蔵、仲代達矢 他

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近頃、日本語って素晴らしいなあと思う。
英語が流暢に話せないことへの開き直りで言っているようにも聞こえるかもしれないが、
決してそういうわけでもなく、日本語独自の細やかなニュアンスや音の響きに、
ハッさせられるようなことが実に多いのだ。

先日、『炎上』という映画を池袋の映画館で見た時も、そう思った。

「炎上」――いまやネットスラングとしてネガティブな意味で使われることの方が多いこの言葉も、
1958年のモノクロ映画の中では、本来の意味を取り戻していた。

三島由紀夫の「金閣寺」をもとに制作された本作。

市川雷蔵演じる吃音の主人公の前に立ちふさがる金閣寺(映画内では驟閣寺)の美しさ。
幼少期より「金閣ほど美しいものはない」と聞かされ続け、夢想してきた金閣は
戦争でいつ焼けるかもわからない――
その悲劇の匂いを漂わす美しさは主人公を捕え苦しめると同時に
精神の中に現実を離れた永劫の美として介入してきて、
やがては「金閣を焼かねばならぬ」という決意にまで至らしめる。

母親への軽蔑、友人の自殺、老師や将来への絶望、自身の孤独――
そして金閣寺への執着と憎しみ。ついに主人公は火を放つ。

スクリーンいっぱいに燃え広がった白い炎は、
カラー映画ではないだけに、主人公の心象とも受け取れて、
現実とも幻ともつかない揺らぎが、見る者に迫ってくる。

燃焼でも、放火でも、着火でも、暴発、でもなく、「炎上」。
この映画のタイトルの方が、原作の「金閣寺」よりも合っていると感じる。
思いつめて思いつめて、火を付けた瞬間の内攻的な狂気を、
これほど適切に表現できる言葉があるのだろうか?とすら思う。

主人公の溝口は物理的にも精神的にも「炎上」したのだ。

「炎上」という概念にはスピード感がある。パアっと燃え上がる瞬間を捉えられる言葉である。
しかし、「炎上」に至るまでの描写は、実に複雑に時間をかけて表現されている。
だからこそ、よりラストにかけての「炎上」がドラマチックに加速して映える。

ストーリー自体も優れているのだと思うけれど、
この映画には、「炎上」という言葉の持つ意味を心底考えさせられた。
文字と映像の関係性に着目できるという点でも、
小説が原作の映画というのは可否が分かれて興味深い。

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……それにしても、「ヴェニスに死す」やバルザックの「知られざる傑作」もそうだけれど、
本当に『個人の精神の中に生成された完全美⇒破滅・狂気』という方向性の物語を、
気付くと手に取っている。そんな物語ばかり読んでいる。

「世界で一番美しいのはだあれ?(又はなあに?)」という問いは、
時代、性別、人種、全てを超えて人間の永遠のタブーであると同時に、
禁忌であるからこそ無数の芸術家たちの強烈なイメージの根源となっているのだろうか。
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プロフィール

菊池ともか

Author:菊池ともか
Twitter:tomoka_slvjet
夢見がちギタリスト&歌うたい。
1988年2月3日生まれ。AB型。
東京都出身。
10代半ばからギターに夢中で
様々なバンドにギタリストとして参加。
現在はソロプロジェクト
"Folk Rock Express"進行中。
愛用ギターは銀ラメのグレッチ・シルバージェット!
アコギはマーチンの000-15M☆

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